石器発掘捏造事件2001.2.2読売・毎日新聞・2.4日本経済新聞 



 昨年の11月上旬非常にショッキングなニュースが列島を駆けめぐった。東北旧石器文化研究所の藤村新一元副理事長による旧石器発掘捏造事件である。以後4か月が経とうとしているが、この問題に関する記事は跡を絶たない。それだけ、大きな事件であり、及ぼした影響も多大であった。
 折りもおり、私が勤めている愛媛県文化振興財団では毎年4人の講師を県内外から招き特定のテーマで講演会を行う「連続講座」をちょうど実施していた。今年のテーマは「考古学最前線」。2回目の講座が終わった直後、この事件が発覚したが、この事件の舞台が、東北地方、北日本であったためか、この問題にまつわる質問などは飛び出さなかった。意外にもこの問題に対して冷ややかな態度であった。また、関西外国語大学の佐古先生からは関係者がこの問題の対応に追われている生々しい状況、韓国学界での反応など控え室でうかがった。
 信頼していた研究者に裏切られた身近な関係者のショックはいかばかりか、相当なものであったであろう。また、これからの再検証のことを考えると、これは容易なことではない。しかし、明らかになった以上日本考古学界が総力を挙げて、検証し直さねばならないだろう。何も焦ることはない。じっくりと行えばいい。
 この事件の背景を考えるとき、いくつか気になる点がある。まず第一にマスコミの取り上げ方である。この職場にきて毎日5紙に目を通しているが、考古学関係の記事の大きさにはたびたび目を引いた。大きい記事だと、1面、文化面、そして発掘担当者の横顔と3面にわたって掲載される。第二は、工藤隆大東文化大学教授が、「知識人、ジャーナリズムなども含めた現代日本の全体を覆う、古代日本像への屈折した心情、いわば“時代の空気”のようなものにも後押していたのではないか」と指摘していることである。誰が悪いのでもない、そういうムード、学界の雰囲気がそうさせたのではないかという指摘である。こちらの方が逆に恐い。しかし、学界もそれに気づき検証しているかもしれないのだが、果たしてこれは学会内部だけのものか。一般の直接考古学に関係ない者にとってはどうだろうか。いずれにしても、マスコミに踊らされないように、また今後の再検証に注目していきたいと思う。